近赤外分光法で何が分かるのか?
近赤外スペクトル(780-2500nm)の多くの場合、測定対象物質の倍音や結合音が観測される。
基本音は基本的に観測されない。では、それぞれどういう意味かというと、
- 基本音:
- 基底状態と1種類の量子数が1である励起状態との間の遷移。
- 倍音:
- 基底状態と1種類の量子数についてのみ2以上である励起状態との間の遷移。
- 結合音:
- 基底状態と2種類以上の量子数が1以上の励起状態との間の遷移。
それにより、
- 近赤外スペクトルから、物質の存在状態。
- 物質を構成する分子の構造や化学結合状態
が分かり、物質の同定、構造、ダイナミクスの研究を行うことができる。
この領域でもっとも一般的に行われているのが、吸収スペクトルの測定である。
赤外領域と同様に顕微分光やイメージング測定も行われている。
近赤外分光法の特徴
赤外分光では許容遷移(Allowed Transition)を観測していたが、
近赤外分光法では禁制遷移(Forbidden Transition)を観測するため、いくつか異なる特徴を持つ。
- 禁制遷移であるため、吸光度が小さい
- 例えば水分子振動の倍音や結合音のモル吸光係数は、赤外の基本音のそれよりも2桁以上も小さい値である。
よって、試料の透過、あるいは、内部への浸透が起こりやすい。
ゆえに、果実、錠剤、生体などのかなり大きさをもった物体の内部の様子を、非破壊・無浸食分析できる。
- 吸収スペクトルを透過法で測定できる
- 光路長1mm〜1cmの試料の吸収スペクトルが得られる。赤外ではこれは困難である
- 測定光を分光計の外部に取り出せる
- 赤外光では困難である、光ファイバの吸収を回避して、測定光を分光計外部に取り出せる。
ゆえに、大きな機動力を持てる。
- 高い感度が必要な測定は困難
- 感度が低い分光である為、逆をいうと、微量分析など感度が必要な測定は困難である。