光学素子
DOE


ここでは回折光学素子、特に回折光学レンズに関して説明をする。
ある物体の像を結ぼうと考えたときに普通レンズを用いることを考えるだろう。
しかし、レンズの屈折作用を用いる以外にも結像する方法がある。
それは光の回折の原理を用いる方法である。

回折光学素子の歴史は古く、1870年代のフレネルゾーンプレートにさかのぼる。
そのフレネルゾーンプレートを改良し光量(回折効率)を改善する方式を1898年Woodがしめし、
その後100%を目指す研究が、実験的にも理論的にも盛んに行われてきた。
現在では、超精密加工技術やリソグラフィー技術によって回折型レンズがさまざまな分野に使われる
ようになってきている。


(1)フレネルゾーンプレート

 歴史の流れに従って、まずフレネルゾーンプレートに関して説明する。
下の図に示したように、白の領域が透過し、黒の領域が透過しないとする。
このとき、隣り合う透過領域から回折したある波長λの光が軸上のある焦点距離 f 
で強めあうとする。強めあう際に隣り合う透過領域からの光路長差は1波長分とする。

上記の条件を満たすためソーンの半径は、


である。
このように、設計した光学素子をフレネルゾーンプレートと呼ぶ。






 フレネルゾーンプレートの特徴を通常のレンズと比較してもう少し考察してみる。
まずある波長で設計されているフレネルゾーンプレートは、上式より焦点距離は波長に逆比例になるために
波長の短いものほど焦点距離は遠いところで結ぶ。これは青い波長ほど傾きをゆるくすると光路長差が
小さくなるため遠いところで焦点を結ぶ。
 ところが、屈折レンズの場合は短波長ほど屈折率が大きいことが知られており(セルマイヤーの分散法則)
焦点距離と波長の関係はフレネルゾーンプレートとは逆の関係になる。
このため軸上色収差が通常の光学系では生じてしまうが、その補正をするために光学系に回折光学素子を
用いることが行われている。



 しかしながら、下に示すように回折光学素子は1次光(隣り合う透過領域の光路長差が1λ)だけではなく、
・・・−2−1、0、2、3・・・次光があり、ある波長では異なる複数の次数光で構成される場合がある。
つまり、光は軸上の一点で集光せずに広がっている。
そのため必要でない次数が迷光となり光学性能を下げることとなる。

この迷光の評価を行うために回折効率という考え方がある。
回折効率とはある波長でのある次数の占有率のことをいう。例えば、400nmを構成する次数が
1次光のみの場合、1次光が回折効率100%、他の次数は0%となる。
(この考え方はグレーティングの時と同じである。)


この振幅型フレネルゾーンプレートの回折効率は、

となる。1次回折光の効率は〜10%程度しかない。これでは、光学系には使えない。

この効率をあげる方法はまず振幅型のフレネルゾーンプレート(FZP)を位相型のFZPにすることである。
位相型FPZは透過しない領域を透過させるようにして位相差をλ/2さらに付加する。
このようにすることで、回折効率を、

と4倍に増加させることができる。
1次回折光は〜40%程度まで増加させることができる。

では、さらに回折効率をあげるにはどうすればいいのだろうか?
これに答えるのがレリーフ型の回折レンズである。
レリーフ型の回折レンズは次のページに述べよう。