実験技術の例

目的

この節ではいくつかの実験技術の紹介を行い、底に潜む誤差に関して説明しよう


実験名 検出精度 実験概要と精度
レイリー屈折計 屈折率精度
(λ=400nm)

@10^-6〜10^-2
(@t = 10mm)

A10^-8〜10^-4
(@t = 1m)

程度



スリットSから単色光λがレンズL1により平行光になり、スリットS1S2に入る。

この2本の光線は互いに平行で同じ長さtをもつ2つの管T1,T2に入る。2本の光線はレンズL2

により重ね合わされ干渉縞を形成し、小さな円筒レンズL3により観測される。

気体の屈折率を測定するには、最初に両方の管を真空排気した状態で縞を観測し、

その後測定したい気体を注入し光路差をつける。徐々に気体を注入すると干渉縞が動く。

動いた縞の数p本、気体の屈折率nとする



屈折率の変化による縞の変化は以下の関係式になっている



通常検出可能な光路差は最小で1/40λから、最大で250λ程度である

レイリー屈折計は、屈折率を求めるのに最も精度の高い方法である。

この屈折計は最初HeやArの屈折率を求めるのに1896年にレイリーにより設計され

λ=589nmに対して得られた(n−1)の値は、それぞれ

3.5×10^-5、28.1×10^-5となり、非常に小さい値さえも検出可能である

抵抗測定
電流と電圧の
計測精度

0.01%



抵抗計測精度

試料の厚みを
計測する精度に
依存する

以前は電気抵抗は直流電位差計が使用されてきたが、

熱電効果やドリフトにより誤差が生じる問題があった。

そこで、最近では
「交流法」が主流となっている。



デジタル正弦波発生器から正弦波信号を用いて、同じ周波数の電流発生器をつくる。

この電流 I を試料AB間に流し、CD間の電圧がロックインアンプに入力される。

試料の抵抗を算出するには、AD間を電流端子、BC間を電圧端子として、繰り返し測定する。

これらの値とファンデアポウ(van der Pauw)により提案された理論を用いて、一様な厚み

の板状の試料に対して2回別の組み合わせで測定し、試料の厚みが分かれば物質の抵抗を

決定できる。このとき、物質の形状には依存しない。

次に個々の装置の特徴に関して述べる

デジタル正弦波電圧発生器



タイマーが256f0の周波数クロックを発生する。これらは8ビットの2進カウンターに入力され、0から255までの

連続する整数値ができる。これらが256のレジスターをもつROM(Read only Memory)にはいる。

それぞれのレジスターの値は



となるようにプログラムされている。これに比例した電圧値がDAコンバータで生成され、

図のようにぎざぎざの正弦波が得られる。この信号はRC回路によって高周波が取り除かれ

1:1の変圧器によって直流成分が除かれる。

正弦波の電圧を作るのにデジタル回路を用いる理由はDA変換によって

振幅が0.001%程度の精度で調整できる。カウンターの最上位のビットは、ロックインアンプの参照信号に

使われる。信号の矩形波で周波数はfである

電流発生器



オペンアンプのゲインは極めて高く、入力端子間の電圧は極めて小さく0と考えてよい

出力電圧=ゲイン*(入力電圧(+)−入力電圧(−))

なのでR1にかかる電圧はV1に等しくなる。さらに、オペンアンプの入力インピーダンスは高く、

アンプの端子間に流れる電流は極めて小さい。よって事実上すべての電流は試料AB間を流れる。

そして、R1を段階的に変更することで電流を変更できる。

この回路の基本的な特徴として電流の値はV1とR1に依存する点にある。

つまり、
試料に依存せずに、電流値を標準抵抗で校正すれば、

その後試料に置き換えても値は不変である。


ロックインアンプ



ロックインアンプの構成に関して説明する


M1とM2は一対の金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(Metal Oxide Semiconductor Field

Effect Transistor ; MOSFET)であり、スイッチの役割を果たす。MOSFETのゲートが正であれば

(Referenceに電圧がかかれば)スイッチがオフになり、負であればスイッチがオンとなる。

Referenceからの電圧が矩形信号が直接M2に、また、インバータを介してM1に印加される。

Reference Signalが正(負)の場合は、M2は閉(開)、M1は開(閉)となる。

今M2が閉であれば、トランスT2の2次側の電圧Pは端子Qで変化せず、逆になると端子Qで反転電圧となる。

これは、オペンアンプの非反転端子(+端子)が接地しているからである。



以上より、Q点での信号はP点での信号を整流したものとなる。

図のRC回路はローバスフィルターであり、キャパシターCにかかる電圧は、小さなリップルを除けば

Qでの電圧の直流成分と等しく、これは、P点での交流電圧の振幅に比例する。

雑音低減(ロックインアンプ)

ロックインアンプとRC回路のローパスフィルタを使用することで、雑音を低減することが可能である

ここで、雑音とは温度による熱起電力(ジョンソン雑音)や1/f雑音、電源からの雑音

(50or60Hzの雑音)、磁場下での機械的な振動等がある

下のような回路を考えてみる。周波数 f とVcとVQとの関係は以下の式のようになる。

0<f<fbの周波数帯域をフィルターのバンド幅と考えることができる。fbを前述のf0より

十分に小さくとることによって、ノイズを除去することが可能となる。

なぜならば、ロックインアンプは参照信号と入力信号の混合器(ミキサー)として機能する。

このとき、参照信号と入力信号の重ね合わせにより、f=0、2f0に成分を持つ波形が得られる。

(高周波の成分は無視している。)ここで、ローパスフィルターを通し、

f=0〜fbまでの信号しか検出されないようにする。その結果、重ね合わせる前の

f0−fb 〜 f0+fbの信号のみを検出することになり、ほとんどのノイズはフィルタにより

除外され、信号に対するノイズの割合を改善することが可能である。

このような雑音削減方法を
狭帯域法(ロックイン検出法)とよぶ。