Paper


Optical NMR from single quantum dots
 solid state nuclear magnetic resonance S.W.Brown 1998



1.Introduction
 
 Mesoscopic系(定義は曖昧だが原子一個よりは大きくてだが、Bulkのようにmm単位ではない系のこと、大体マイクロからサブナノメートルの領域)では原子が集団の性質を持ちはじめるとても興味深い系であるので近年、物理だけでなく化学でもとても精力的に研究が行われている。しかもこの領域では応用のために閉じ込め効果を用いた光学的電気的性質をデバイスに応用されている。
 応用のためにはやはりこのMesoscopic系の研究は重要で今日ではensemble-averageでの研究は行われてきた。しかし単一のnanocrystal(10-9mの微粒子)や単一の量子ドットなどはこれらの製造の向上によって識別できるようになったが平均を見ているために
詳細はあいまいなままであった。
 本論文はそんな事情の中、単一の量子ドットからのNMRを測定したものである。どれくらいすごいかというと、今までのNMRの研究では
1018のスピンが必要であったが、(これが空間的な分解能を制限してしまう。)光検出によるNMRならば単一の量子ドットの検出が可能である。現在のOptical NMRであるならば105(4×10×100nm3 GaAsなら)程度の核からのスペクトルを得ることができる。本実験からは核スピンのNMRではよく知られているようにRF(radio wave;ラジオ波)を入射することでスペクトルが数十kHzのシフト(overhauser shift;後述)をし線幅は12kHz(69Ga),22kHz(75As)であった。で注目したいのは個々のドットのスペクトルの形は異なっていた。今回の実験は今まで行われたoptical NMRの信号の5桁、通常のNMRの13桁というかなり感度の高い実験を行うことができた。




2.Background
 
 
この章ではこの論文を理解するための背景を紹介する。
まず、
電子のエネルギー準位のshiftであるOverhauser shiftを簡単に紹介する。
Overhauser shiftは電子と核の間での
hyperfine相互作用によって起こる。この相互作用の大きさは一般的には以下のように書くことができる。
                               


Sは電子スピンをIは核スピンを、AはテンソルであるがGaAsの伝導帯の底のs-like(つまり水素原子模型でいうs状態のような球対称な波動関数のとき)のようなときAは定数として扱える。このとき上の式をもっと物理的にわかりやすいように変形することができる。
                       

この式の言っていることは第一項が+はスピンを上向きにひっくり返し-はスピンを下向きにひっくり返すことを意味し、第二項が電子と核のスピンのz成分つまりその系の電子エネルギーのshift量を表す。(この項以外に電子自体のエネルギー準位を表す項があるのでそこからのずれということ。)。第一項をもっとと詳しく見ると括弧の中の一行目は核スピンのを下向きにし電子を上向きにする。第二項はその逆である。
 次にhyperfine相互作用の大きさを表すAは以下のように表せ、

                    

これは、電子の波動関数がどれくらい核の位置にあるか(位置の部分は核の位置を表している)を意味する。要は電子が核によく染み出すほどhyperfine相互作用は大きくなる。
これで理解できるわけではなく次の核スピンの性質が重要なのである。核スピンの緩和時間つまりスピンをひっくり返すまでの時間は実は
分オーダーであることがこれまでの実験から知られている。
そこで量子ドット内に電子を光学的に励起するときに、右回り偏光だけでスピンをある一方方向だけに偏極させる(そろえる)。電子は数百ns程度で緩和してしまうので、この緩和時間の違いから核スピンに電子のスピンを
(この方向だけに)トランスポートすることを表すhyperfine相互作用によって核スピンをある一方方向に分オーダーでどんどん偏極することが可能になる。注意したいのは決して核スピンによって電子スピンがそろえられるわけではない。電子はあっという間に緩和してしまうので、どっちの方向に向いているのかはすぐにわからなくなる。
 次に第二項をもっと物理的に解釈するならば電子のenergy levelをshiftさせるOverhauser shiftは基本的に取るに足りない量である。しかし核スピンを大量に偏極させるとOverhauser shiftの効果は無視できなくなる。全ての核からによるOverhauser shiftの量は

                 

上の式を変形すると詳細は除くが、
                

である。これはαは核の種類で和を取った。核スピンIはスカラー量で核の偏極具合を表した項になっている。個々の核スピンのoverhauser shiftに寄与する程度は電子の局在の程度と量子ドット内でどの程度核スピンが偏極しているのかが重要であり、1次の近似の範囲では量子ドットの大きさは重要ではない。
 

 
重要な結果が以上のことを考察すると出てくる。つまりelectronのzeeman分裂(磁場によって電子のエネルギー準位でアップスピンとダウンスピンの縮退がとけ、二つの準位に分かれる現象)は、外部磁場に対して核スピンがそろうことによってできた磁場が加算的に効くのか減算的に効くのかによって、増えたり減ったりする。
今までのことを図にしてまとめると、



これがOverhauser shiftの原理である。この変化量はたいていg因子をg*と書き直して評価することが普通のようである。しかし今回の論文ではこれが重要ではなくこれより一歩先に進んでいて、個々のドットからの核分極によるOverhauser shiftを見ようとしているのである。のちに実験dataを示すがここのoverhauser shiftの違い(とりわけ各量子ドットにおいて電子が核への波動関数の広がりが違うために生じる違い)を観測することができた。



実はOverhauser shiftのほかにもスペクトルを変化させる原因がありそれはKnight shiftと呼ばれているものでこれに関してはOverhauser shiftと似たようなものであるが詳細はここでは今は省く余力があれば書きますが、



3.Experiment

実験で使用したsampleはMBE(原子一層一層積むことのできる装置)で結晶成長させたGaAs/AlGaAsの5つのquantum wellsを持つもので井戸幅は3〜15nmの異なったものとなっている。井戸の界面では楕円型の10〜100nmの島ができていて(下図参照)井戸方向(一次元)と層の厚みの違いによるポテンシャルの揺らぎによる閉じ込め効果(2次元)によって、3方向全てに閉じ込められた量子ドットが形成される。

                

この三次元方向に閉じ込められた局在した励起子(localized exciton、電子と正孔の対、水素原子のような振る舞いをする)は普通の励起子と異なる再結合発光のエネルギーを持ち、もちろん個々のlocalized excitonも周囲の閉じ込めの環境の違いで異なったスペクトルを示すことが予想される。単一の量子ドットに照明するためにあらかじめ積んで置いたアルミに小さな穴をリソグラフィーで作った。穴が5μmより小さかった場合にここの量子ドットからの発光を捕まえることができた。代表的な発光を下に示す。下の図は個々の量子ドットのheavy-holeからの発光である。

           

発光というと伝導帯のelectronと価電子帯のholeの再結合発光によって観測できるのだが、holeは実はbulkの状態ではheavy-holeとlight-holeで縮退しているのであるが、量子井戸の閉じ込め効果によってこの準位の縮退はとかれる。今回はheavy-holeからの発光と特定できたわけであるが、その理由としてはlight-holeからの発光は30meVものenergyの高いところにはなれた場所に見られることが以前の実験によってわかっているからである。よってこの5meV内にある発光の不均一広がりはすべてheavy-holeからの発光であることが結論付けられる。
 次に実験系に関して説明する。

                      

核スピンの分極を乱すためにRF(radio frequency)を入れるこのときの磁場は約0.7G(1G=10−4Wb/m (T;テスラ))、温度は6K程度に保ち、Ti;Sapphire LaserでFaraday配置(B0〃k)で20mWの1.64eV(755nm) で照射した。三枚のグレーティングでCCDを用いて5μeVのスペクトルの分解能を得られた。


4.Results and discussion

             
 
(a),(b),(c)はそれぞれ磁場が0T、1.0T、2.5Tで磁場を上げるとともに高エネルギー側にちょっとした変化が見られるがそれはdiamagnetic shift(反強磁性シフト)と呼ばれる磁場に対して二乗に変化する変化が見られる。磁場によってpeakが分裂していくがこれは、Zeeman acd Overhauser effectの両方で説明がつくことを以前説明した。その二つの効果とは、

           

であった。以下その定量的な評価を行う。

             

このエネルギー分裂からoverhauser effectは75μeVだけ影響を与えており、完全に核スピンが分極したとして最大で135μeVであるので56%は核スピンが分極しているのがわかる。
この核スピンの分極をなくすためにRFを入射させるのだが、光を入れながらRFをかけるので核分極を作りながら核分極をなくすことをするので、optical pumpingの強さやRF rate and powerに依存するのは予想できる。Sweep rate(多分、一分当りの)を変えながらoverhauser shiftの変化を調べたのを下の図に示す。

          
外部磁場は1.0Tにしてσ+で励起し、7〜14MHzまで(このRFの範囲には69Ga,71Ga,75Asの共鳴周波数がある。)をsweep rateを0〜2Hzで変化させながらoverhauser shiftの変化量を見た。sweep rateを1Hz以上にするとそれほどexcitonのenergy levelの変化量は変化しなかった。
 次に75Asだけに着目してRFを変化させoverhauser shiftを観測する。

 これによってexcitonの準位の上側の減少と下側の増加が観測された。大体共鳴の時の周波数は図から読み取ると7.275MHz程度のときであることがわかる。これから75AsのOverhauser shiftを観測した。(もちろん単一の量子ドットからである)75Asの共鳴周波数はいくつかあるがそのうちのもうひとつの例を挙げると、

       
この結果は2.5Tで0.5kHz/minでRFの周波数を振った。σ+で225から205μeVに減少し、 σ-では65から85μeVに増加した。FWHMは22kHz。



次の実験は69Ga,75AsのNMRの違いに着目したものである。
実験条件としてはσ+で励起し(下の図は間違っている、なぜならσ-ならOverhauser effectは大きくなるからである)



               
69Ga(shift量………18μeV、30%の核分極、10.193MHz
                          FWHM……12kHz)
               
75As(shift量………30μeV、50%の核分極、7.274MHz
                          FWHM……22kHz)
           Ga bulk (FWHM………2kHz)

このような分極の比率は71Gaの大きさがわかれば比は出せるが今回はそれがのっていないので割愛する。本論文では上のような記述であった。
このようになぜBulkとFWHMが大きく異なるのかというと、四重極カップリングやhyperfine相互作用などによるブロードニングの効果を考えないといけない。
今回の69Ga,71Ga,75Asはすべて核スピンとして3/2をもち四重極カップリングがある。
まずこの効果による考察をする。四重極カップリングは基本的には1次の四重極カップリングと2次の四重極カップリングがある。磁場と線幅は逆比例の関係が2次の効果には期待されることが知られている。
 しかし、fig6a、fig7aでは磁場に関してFWHMはほとんど効いてきていない。これは2次の効果がそれほど支配的でないことを意味する。
一次はunresolveなので磁場に対してというより今回の考察には考える必要はない。
つまり四重極カップリングはブロードニングに効いてきていないと考えられる。

 次に定常状態で、核分極が飽和していない場合には、以下の式で表現できる。

                  

刄ヨは現象論的なブロードニング定数、磁場はRFのものTは核スピンの緩和時間。fig6で両者の差をとって2で割った値が80μeVがOverhauser shift(注意したいのはこの中に69Ga,71Ga,75AsのOverhauser shiftが含まれている。)である。RFを入れても完全に核の分極が元に戻るわけではないので、つまり共鳴以外のは核スピンは分極したままであり共鳴したものでも完全に元に戻らない。(個人的にはここら辺の議論はかなり適当と思われるが)ここで80μeVのうち50%が75Asの分極なのでその分極の量は40μeVである。今回20μeVのOverhauser shiftが元に戻ったことから共鳴によって75Asの分極の50%が元に戻ったと考えられる。 共鳴ではω-ω0=0なので、このことは上の式で
                           
あることを意味する。ここから磁場の強度によるブロードニングの効果は40%と算出されるらしいが何でだろ?

 hyperfine interactionも井戸などと比べてより局在した量子ドットのようなものではスペクトル線のブロードニングは顕著になるだろう(このようなブロードニングの現象はbulkでも観測されている、個人的には理由ははっきりしないが。)




最後に個々の量子ドットからのNMRを見てみよう。
σ+で1.0Tでのもとである。



まず1,2と振ってあるのは個々の量子ドットからの発光である。この図からわかることは電子の二つの状態の発光強度が個々の量子ドットで違うこと。これは二つの量子ドットからの電子の分極のし具合が、つまり上の準位と下の準位にいる割合が双方のドットで異なるということ。
(b)では75AsのRFの共鳴でのOverhauser effectの変化であるが、両方のドットとも20kHzの半値幅(FWHM)を持っている。

これらの原因はいろいろと考えられるが(Kight shift second-order-chemical shiftなどがあるが)いまのところ僕が理解できるのは個々の量子ドットにおいて環境の違いが大きく反映された実験結果であるということであろう。